研究概要 |
カルシニューリン系情報伝達は、中枢神経系では神経可塑性や神経成長因子の作用、そして脳梗塞などの虚血性脳疾患や神経変性疾患における興奮性神経細胞死に関与しており、さらに近年の研究で、統合失調症に関与すると考えられているドーパミン系神経伝達系とグルタミン酸系神経伝達系の下流に位置することが明らかになってきた。従ってカルシニューリン系情報伝達は統合失調症の病態において、双方の情報伝達を収束して他の情報伝達系に橋渡しする重要な役割を果たしている可能性があり、統合失調症の病態に関与する新たなシグナルパスウェイとして注目されている。そこで、本研究では、カルシニューリン系情報伝達の下流因子の統合失調症への遺伝的関与を網羅的に検索し、治療ターゲットとなりうる物質を同定することを目的とした。本年度は、カルシニューリン系情報伝達による制御を受けでいるGABA受容体関連遺伝子群を中心としたカルシニューリン関連遺伝子群(計27遺伝子)について約400のtagSNPsを抽出し、ABI社のTaqMan及びillumina社BeadXpressを用いたgene-centricな高密度SNPsジェノタイピングを日本人統合失調症患者1,000人および健常対照者1,000人の計2,000人を対象に行うこととし、解析が終了したものの中で2遺伝子について有意な結果が得られた。これらの遺伝子については、統合失調症罹患者の死後脳(前頭前野皮質)の研究で脳内mRNA発現の減少も確認されていることから、有力な統合失調症脆弱性候補遺伝子である可能性が高く、今後はこれらの遺伝子をターゲットとした創薬などの治療的なアプローチが期待される。
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