本研究では、認知症患者の判定に広く行われているベントン視覚記銘検査に適した"特殊なMRI"を開発し、脳機能・活動の直接的な観察情報を導入することによって、検査の精度・信頼度を劇的に向上させることを最終的な目標とし、そのための基礎的知見を得るための試験を行う。 前年度までに、超伝導磁石のコイル部分の設計と製作が完了している。本年度は、超伝導磁石を冷却するクライオスタットの設計と製作、コイルとクライオスタットとの結合作業を行い、さらに分光計とも結合して、MRIシステムを組み上げた。 本開発の特徴である磁石構造の非対称性を活かすためには、断熱空間が狭いコンパクトなクライオスタットを実現する必要がある。そのため磁石の機械的なサポート構造も非対称化し、メインコイル下端部とクライオスタット下端面の距離が小さい構造とした。また、ヘリウム槽などを強度部材として併用し、無駄な断熱空間をできるだけ狭くした。クライオスタットの基本設計仕様は、ボア径89mm、液体窒素槽容積66リットル、液体ヘリウム槽容積98リットルである。 超伝導磁石のコイル部分とクライオスタットとの結合作業は、まず液体ヘリウム容器ヘコイル部分を封入して溶接した。続いて液体ヘリウム容器と液体窒素容器を合わせて真空容器へ封入のうえ、シールした。最後に、液体ヘリウムレベルプローブと、液体窒素レベルプローブを取り付けた。 磁石中心での磁束密度が0.77テスラとなるように励磁を行い、磁場分布を測定したところ、磁場補正(シミング)を行わない状態で、直径35mmの球形空間内で約1000ppmの均一度であった。 その後、MRIシステムを構成するため、勾配コイルやアンテナ、分光計などを磁石に組み付けた。信号検出アンテナは、磁場0.77テスラ付近での水素の磁気共鳴周波数(~33MHz)で動作するように円形巻線で製作した。
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