これまでにPOLβ欠損細胞のみが部分的に温熱耐性を抑制することを明らかにしている。従来、温熱によってタンパク質が変性することで細胞は死に至り、あらかじめの温熱処理によって誘導されたHSPがタンパク質の熱変性をレスキューすることで、温熱耐性が獲得されると考えられてきた.しかし、HSPがレスキューするタンパク質は何かということについて未解決のままであった。一方、我々は温熱誘導DNA二本鎖切断(DSB)形成率と温熱感受性との間に高い相関性があることを明らかにしてきた。温熱によって塩基除去修復過程にかかわるポリメラーゼβ(Polβ)が失活すると、塩基損傷が修復されずにDNA一本鎖切断(SSB)が残存し、このSSBが異なった鎖上の近傍に起これば、温熱でもDSBが生じるというモデルを提唱している。温熱耐性獲得のメカニズムは、あらかじめの温熱で誘導されたHSPがPolβの熱変性による失活をレスキューすることでDSB生成量が少なくなるためではないかと考えるに至った。 本研究によって、HSP阻害剤KNK437を増感剤として用いることで温熱による耐性獲得を抑制することができ、高い殺細胞効果があることを見出した。また、Polβ欠損細胞では部分的に温熱耐性が解除されることを明らかにした。さらに、免疫沈降法によって、あらかじめの温熱処理後にPolβとHSP70が結合していることを示した。これらのことから、HSP阻害剤による温熱増感メカニズムは、あらかじめの温熱によるHSP誘導を阻害したことでHSPのレスキューの標的の一つであるPolβが熱変性によって失活したため、DSB生成量が多くなり、細胞死に至ったことを明らかにした。
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