がん温熱治療療法の問題点として温熱耐性が知られている。温熱耐性とは、あらかじめ温熱処理された細胞がその後の温熱に対して死ににくくなるという現象である。そこで温熱によるがん治療効果の増強を目指し、温熱耐性獲得メカニズムの解明を本申請の目的とした。温熱耐性におけるDNA損傷の認識機構や修復機構に関わる遺伝子の影響や、これらタンパク質や核内ドメインの温熱処理後の生きた細胞内における挙動を観察することで、温熱耐性獲得の分子機構を明らかにすることを狙ってきた。 放射線ではDNA二本鎖切断(DSB)認識リン酸化タンパク質とDSBの指標として知られるγH2AXのフォーカスの局在がよく一致していたが、温熱処理では部分的にフォーカスの局在が認められたが、γH2AXのフォーカスに比べてATMの減衰が速いこと、DNA-PKcs、Chk2はX線と比べて遅れてフォーカスが認められることを明らかにした。これらのことは温熱でDSBが出来ていたとしても、X線とは違う反応こそに、温熱応答メカニズムを解く鍵があると考えるに至った。そのひとつとして、DSB修復との関係について、様々なDSB修復欠損株とその親株の温熱感受性と放射線感受性を比較したところ、NHEJ関連遺伝子の欠損株は温熱感受性にはまったく無関係であることを明らかにした。一方、HR修復欠損は放射線と同様、温熱でも感受性に差が認められ、温熱処理によってHR活性が高まることを確認した。 また、温熱耐性獲得時にγH2AXおよびその他のDSB認識リン酸化タンパク質のフォーカス形成率が減ることを明らかにした。
|