難治性がんの代表といえる膵癌に対し、Interventional Radiologyの技術を用いて特異的に標的臓器である膵のみに薬剤曝露を可能とさせる世界初のDrug delivery systemの開発を目的としている。前年度の研究で膵の血液流出路は脾静脈または脾静脈の門脈流入部であることが確認され、背側膵動脈から注入されたシスプラチンは脾静脈の門脈流入部に流出することから膵灌流療法システムを作成した。 今年度は、ブタ7頭で追加実験を行い、前年度からの実験を加えることで計12頭での膵灌流療法システムのデータを得た。内容は、経皮経肝的に門脈を穿刺して人工心肺装置を用いて膵閉鎖循環を作成し、背側膵動脈に注入したシスプラチンを流出路から回収する膵のみを標的臓器とする膵灌流療法を行った。12頭の実験データから膵へのプラチナ濃度は劇的に高濃度でmaximum platinum concentration(C-max)=80.2mg/Lとなり、膵外(全身系に漏出した)のC-maxは0.84mg/Lであった。 C-maxのpancreas/systemic ratioは95倍となり、area under the blood platinum concentration-time curve(AUC)のpancreas/systemic ratioは約110倍であった。この結果は世界初の膵灌流療法システムが膵癌治療に対し、飛躍的な治療効果を得る可能性が高いことを示唆する。また、膵灌流療法後に膵および肝・消化管を摘出して病理学的検討も行ったが12頭全頭で臓器障害は認められず、膵灌流療法システムの原理は完成したと言える。現在、膵灌流療法システムの臨床試験実施のためのデータ分析を行っている。また、この治療システムは遺伝子治療の臨床応用としても非常に有効であることが示唆された。
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