本研究は難治性膵癌に対し、低侵襲で効率的な治療が可能となる膵癌治療のための新技術の開発を目的としている。 膵臓への流入路は動脈であるが、流出路は門脈という特殊な血流動態をもつ。膵臓の流入動脈・流出静脈をバルーンカテーテルで制御することで膵の閉鎖循環システムを作成し、動脈から投与した抗癌剤を流出路である門脈から回収するという方法で全身への薬剤漏出を防ぎ、特異的に標的臓器である膵のみに薬剤曝露を可能とさせる世界初のDrug delivery systemの開発を行ってきた。 当該年度の研究では背側膵動脈より投与した抗がん剤は膵を曝露し、全身系に漏出する抗がん剤は投与量の約2%しか認めず、膵灌流システムは当初予想していた以上の低漏出率であった(米国特許出願;Perfusion system for pancreas treatment 12182286)。しかし、実験終了後に膵を摘出して病理学的組織変化の検討では膵への抗がん剤注入速度を180ml/minにするとブタ5頭中5頭(100%)、120ml/minでは5頭中4頭(80%)で膵浮腫が生じていた。また、60ml/minで注入した場合、膵浮腫発生は6頭中0頭(0%)であった。さらに、膵組織内抗がん剤濃度は抗がん剤注入速度が180ml/min、120ml/min群の方が60ml/minで注入した群より有意に高かったが、180ml/min、120ml/min群の2群では有意差はなかった。膵灌流システムは完成したが、膵臓への注入速度が早すぎると病理学的に膵浮腫が生じることも判明した。この世界初の膵灌流療法の臨床試験を実施するためには注入速度と膵浮腫が生じる関係を解明する必要性がある。また、急性期・亜急性期の障害の発生の有無または障害の程度を経時的に観察・確定する必要がある。
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