研究課題
癌の多様性は根治性を妨げるものであり、「原発巣におけるheterogeneity」、「転移・再発」そして「治療抵抗性」が多様性を形成している。これらの原因として癌幹細胞の存在が知られ、癌幹細胞を正確に捉え制圧することが、癌の根治を実現する上で極めて重要である。われわれは平成21年度から22年度まで3年間助成をいただき、癌幹細胞を検出し制圧するための様々なアプローチを行い成果を上げた。初年度はLaser microdissection(LMD)を用いて発現profileを明らかにし、H21年度は癌転移において重要な役割を担う上皮間葉移行(EMT)を制御する遺伝子を同定した。本年度は特に大腸癌と肝臓癌における癌幹細胞マーカーの同定において成果を上げた。まず、大腸癌幹細胞は造血幹細胞、神経幹細胞のマーカーとして知られるCD133が発現することが知られている。われわれは大腸癌細胞株においてCD133+細胞がCD133-細胞に比較して高い腫瘍形成能を有することを明らかにした。さらに、CD133のみならずCD44+細胞において造腫瘍能を示すことを明らかにした。一方、肝臓癌の幹細胞マーカーとしてわれわれは、CD13発現細胞がGO期にあり、造腫瘍能を有することを明らかにした。また、CD13陽性細胞では化学/放射線による活性酸素(reactive oxygen species : ROS)誘導によるゲノムDNA損傷に対して、アポトーシスから回避させること示した。また、CD13抑制により肝癌細胞は自己複製能および造腫瘍能を喪失することを明らかにした(J. Clin Invest 2010)。癌幹細胞を標的として治療戦略は難治性の進行癌克服のための非常に有望と考えられている。しかし正常幹細胞と癌幹細胞は多くの共通点があり単純な幹細胞シグナルの阻害のみでは癌幹細胞を特異的に標的とする治療とならず副作用の問題が生じる。今後は癌幹細胞特異的な分子の同定、またそれを治療標的するためのさらなる研究が必要とされる。
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