研究課題
EGFR遺伝子に変異を有する細胞を用いて、細胞内に存在するリン酸キナーゼの同定を試みた。無処理、EGFR阻害剤処理、EGFR阻害剤処理+EGF添加、の各条件として細胞を回収し、3群それぞれから得られたペプチドを異なる標識試薬で処理した後、抗チロシン抗体を用いて免疫沈降処理を行い、チロシンを含むペプチドを回収した。これらを試料にして、マススペクトロメトリーを行い、多数のリン酸化チロシンを同定した。これらの配列をデータベースに照らし、該当する配列を含むタンパク質を同定した。この中には、EGFRの複数のリン酸化部位も含まれていた。得られた蛋白のリストを確認し、EGFR阻害薬によるリン酸化の阻害の度合いが、蛋白により異なることを確認した。阻害の度合いが比較的大きなものがEGFR蛋白の制御を大きく受けていると考え、EGFR阻害剤によりチロシンのリン酸化が著明に抑制される蛋白の1つであるGRLF1(p190-A RhoGAP)蛋白に着目し、機能を解析することにした。GRLF1蛋白のEGFR変異肺癌細胞内における動態を確認するため、EGFR阻害剤の処理前後で細胞を処理し、そのリン酸化の状態をウェスタンブロットで確認した。これにより、同蛋白のリン酸化がEGFR阻害剤により低下することが裏付けられた。本蛋白の肺癌細胞における機能を明らかにするため、siRNAによるノックダウンを行ったところ、細胞の増殖が抑制されることが確認された。正常細胞においては同様の処理を行っても増殖の抑制は認められなかった。肺癌の臨床検体においてGrlf1遺伝子のRNA発現量を定量したところ、正常組織に比較して2倍以上に発現の亢進している症例がほとんどであった。この発現亢進は肺癌の病期とは相関せず、肺癌発生の早期より関与している可能性が考えられた。本遺伝子並びに本蛋白は肺癌の治療標的の候補となり得る可能性があると考えられた。
すべて 2011 2010
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件) 学会発表 (2件)
J Thorac Oncol
巻: 6 ページ: 139-147
Ann Thorac Surg
巻: 90 ページ: 302-303