研究概要 |
我々は、癌化リスクが少なく倫理的問題がクリヤーしやすい、胎児由来で未分化細胞を多く含むヒト羊膜細胞に着目、これを用いてペースメーカー細胞を分化誘導、除脈性不整脈に対する新たな治療法を確立することを目的として本研究を行った。羊膜細胞から心筋様細胞への分化誘導が報告されているが、その確率は極めて低い。我々はまず羊膜由来細胞の心筋分化能改善をめざし、羊膜由来細胞から、より分化能の高い細胞を単離、また近年のiPS手法を用いてその分化能を改善することを試みた。羊膜細胞にはSox2,Klf4,Lin28といった未分化状態を維持する転写因子が発現しているが、Oct4,Nanogの発現量は乏しい。Nanog発現細胞は羊膜幹細胞であるのではと仮定、ヒト不死化羊膜細胞にNanogプロモーター下流に蛍光遺伝子を組み込んだプラスミドを用いNanog発現細胞を純化、Nanog非発現細胞と比較したところ、Nanog,Oct4,Sox2など転写因子のmRNA量が高く、5-Azacytidineを用いた分化誘導系で、Nanog発現細胞はRNAレベル・タンパク質レベルともに高い心筋分化能を認めた(Outaka et al.now preparing)。また不足する未分化状態を維持するkey factor,Oct4を過剰発現することで心筋への分化能が改善するのではないかと仮定し、継代培養羊膜細胞に電気穿孔法でOct4発現プラスミドを遺伝子導入したところ、Oct4のみならず、他のiP関連転写因子の発現量増加、またこれらの発現量が高まったところで分化誘導を行うとGATA4,Mlc2a,Mlc2vといった心筋分化マーカーのRNA量も増加。免疫染色では、TnT,MHC,Mlc2vといった収縮蛋白がMyofiberを形成、細胞膜上にはのコネキシン43の発現と心筋細胞と酷似した形態を呈した(Nagura et al.now preparing)。しかし現時点では羊膜由来細胞から拍動心筋への分化誘導はなされず、ペースメーカー細胞の単離には至れていない。ただし、収縮蛋白とともに活動電位を伝えるGap junc tionを形成するコネキシン43発が確認できたことから、周期性のActin potencialを発現する細胞への分化が可能となれば、移植先に活動電位が伝わり、細胞移植によるペーシング療法が成り立つであろう。
|