研究概要 |
肺腺癌の約60%は相互に排他的な原癌遺伝子の異常を有しており、これらの異常は、それぞれの異常を有する肺腺癌において重要な治療標的であることが示されてきた。遺伝子異常の多くはEGFR経路(主にEGFRおよびKRAS)に存在するが、約40%の肺腺癌症例についてはこのようなkeyとなる遺伝子異常が明らかとなっておらず、EGFR以外のがん遺伝子経路について解析を広げていく必要がある。 そこで我々は、肺癌細胞株および臨床検体を用いて新たな分子病因の探索をおこない、昨年度までにMET遺伝子増幅(1.4%)、MET遺伝子変異(3.3%)、PTPN11遺伝子変異(0/241)、ROS融合遺伝子(0/92)、MEK1遺伝子変異(0/92)、HER4遺伝子変異(0/98)について報告した。今年度は、大規模解析で同定されたHER2遺伝子変異症例(13/502)に既報からのHER2遺伝子変異症例14例の最新データを加えて詳細な検討をおこない、その臨床背景や治療成績・予後,一例のHER2変異肺癌のHER2特異抗体による治療経験について報告した(Tomizawa, et al. Lung Cancer, in press)。 一方、上述のMET遺伝子増幅は肺腺癌のEGFR標的治療の耐性機序としても報告されており、標的治療に対する耐性機序を解析することは、治療耐性の克服につながるのみならず、肺腺癌のEGFR経路外の遺伝子異常を同定する契機にもなり得ると考えられる。このため、HCC827細胞株よりEGFR阻害剤耐性株を作成してその機序を詳細に検討した結果、2大耐性機序であるEGFR T790M変異とMET遺伝子増幅が、相反・相補関係にあることを見出した。今後は、別のEGFR阻害剤獲得耐性細胞株やEGFR阻害剤獲得耐性症例サンプルの検討により、獲得耐性機序の解明、さらにはEGFR経路外の原癌遺伝子異常の同定を目指している。
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