研究課題
本研究の達成目標はES細胞移植臨床応用のためにホスト脳環境を至適化することにあり、以下のような目標を定めて実験を進めている。(1)IL-6シグナルがES細胞由来神経幹細胞の分化に与える影響を明らかにする。(2)慢性炎症が移植細胞に与える影響を明らかにする。(3)抗原抗体反応の側副経路を修飾することにより、ホストの免疫寛容状態を誘導する。平成22年度の研究ではそれぞれ以下のような成果を得た。(1)マウスES細胞由来神経幹細胞の脳内移植時に抗IL-6受容体抗体を同時投与すると炎症細胞の集積や周囲脳のグリオーシスが抑制されることが明らかとなった。さらに8週後の移植片内の神経細胞が有意に増加しグリア細胞が減少した。この効果はサイクロスポリンを全身性に継続投与した場合と同程度であった。(2)マウス慢性脳低灌流モデルにおける白質でのグリア細胞活性化、オリゴデンドロサイト脱落、脱髄性変化および血管内皮の酸化ストレス障害が低用量テルミサルタンにより有意に改善されることが明らとなった。さらに脳低灌流によって引き起こされる記憶障害がテルミサルタン投与によって改善されることも明らかとなった。(3)CTLAIgを用いて抗原抗体反応の側副経路を修飾することにより、移植片周囲の炎症・免疫反応が抑制されることが明らかとなった。さらに8週後の移植片においてドーパミン神経細胞(TH陽性細胞)の生着数も有意に増加することが明らかとなった。これらの成果は、幹細胞移植治療において移植細胞の性質のみならずホスト脳の環境も移植細胞の生着や分化に重要な働きをしていることを意味する。実際にホスト脳の炎症を抑えることによって移植の効果を高めることを実証できたことは今後の細胞移植治療の発展に寄与するものと考えられる。(1)、(2)はすでに論文報告し、(3)は現在投稿中である。
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J Neurosci Res
巻: (in press)
Stroke
巻: 41 ページ: 1798-1806