研究概要 |
本研究は、難治うつ病の治療法である迷走神経刺激法の、脳の回路網レベルでの作用機序解明を目指している。「束傍核から尾状核への投射が迷走神経刺激の抗うつ作用に関して主要な経路となっている」 ことを作業仮説として、ラットにおけるうつ病の様々なモデルを用い、抗うつ薬のスクリーニングの要領で迷走神経刺激の効果を確認した上で、束傍核の破壊がこの効果を減弱ないし消失させることを示そうと試みる。 初年度はモデル動物を作ることが課題であり、以下の3種類の動物モデルを検討した。 1.強制水泳(伊藤が担当):a.水槽に入れ、一定時間放置する。b.一週間後、再び水槽に入れ、無動の時間を計測する。 2.学習性無力(高照が担当):a.テストチェンバーで、回避できない電撃を与える。b.回避可能条件で電撃に対する回避の頻度を調べる。 3.社会的ストレス(高田・廣中が担当):a.他のラット(resident)のなわばりの中に実験群の個体(intruder)を侵入させ,侵入した側の個体が,なわばりを守る測から攻撃を受ける(resident-intruderモデル)。b.強制水泳条件で、うつの程度を調べる。 伊藤はラットの行動実験を始めるに当たって、場所の確保から始め、実験系、装置、環境などを解決した。社会ストレスは初めての試みながらストレス状態を作り出すことができた。現在これらの動物で迷走神経刺激の効果を検討しているが、いまだ例数が十分でなく明確な効果を得るに到っていない。 始めてみてはっきりしたことは、電極の性能がこの研究のポイントだということで、装着に際して神経を傷めないこと、埋め込んだ状態で抜けないこと、動物の日常を妨げないこと、などを満たす必要がある。臨床で使われている電極を使うことができず、動物用の既製品ではよいものがないため、開発(設計・試作・試験)する必要があった。これは引き続き検討中である。
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