頭頸部の動脈硬化性病変のうち、頸部頸動脈狭窄症に対する主な標準的外科治療に、頸動脈内膜剥離術がある。術前に脳循環予備能が障害されている高度病変の場合、術後合併症の一つである過灌流症候群発の生率が有意に上昇することが問題となっているが、発生機序は依然明らかとなっていない。今回我々は、手術中の頸動脈一時遮断による脳虚血と、脳血管関門破綻をもたらすMatrix metalloproteinase-9の静脈血中濃度が有意に相関することを見いだし、特に神経学的欠落を来した症例においてはさらなる上昇を示すことが確認された。内膜剥離術に伴う合併症の発生機序の一つと考えられた。 過灌流症候群後の高次脳機能障害発生の問題に対して、MRIをもってしても伴う解剖学的変化の特定が不明であった。この度、iomazenil SPECTを用いた研究により、過灌流症候群後にcortical neuron lossが起こっていることが確認でき、この程度と術後の高次脳機能障害と相関していることが明らかとなった。内膜剥離術に伴う脳梗塞発生には、術前の脳循環予備能の低下が有意に相関しており、また、これらはSPECTやMRAで予見可能なことが明らかとなった。術中では、経頭蓋的ドプラのflow velocityの低下が内膜剥離術に伴う脳梗塞発生に有意に関連することが明らかとなった。そのほか、脳循環の基礎的な研究において、内頚動脈解放後のhyperemiaは、遮断中の虚血の程度を反映することを明らかとした。また、臨床治療において、従来の内頚動脈狭窄症の治療適応基準に該当しないが、明らかに有害である病態が存在することが問題であったが、これに対する新たな治療基準を提唱できた。
|