研究課題
N-アセチルシステイン(NAC)は活性酸素種(ROS)に対する直接的あるいは細胞内に豊富なグルタチオンを介した間接的な抗酸化剤である。臨床的には解毒剤あるいは鎮咳剤として用いられており、人体への安全性が確認されているが、関節疾患には応用はされていない。そこでNACの軟骨細胞に対する抗アポトーシス作用、グルタチオンへの関与、および変形性関節症(OA)に対する進行抑制効果について検討した。in vitroで、日本白色家兎から単離した軟骨細胞を平板培養後、NAC含有培地に交換して1時間培養した。アポトーシスの誘導にはsodium nitroprusside(SNP)を用いた。MTT assayで生存率を評価し、Hoechst33342による核染色およびTUNEL染色でアポトーシス細胞を判定した。細胞内のROS量とアポトーシス関連因子であるp53、p53(pSer15)、caspase-3のタンパク発現を測定した。SNPの添加により細胞生存率は低下し、アポトーシスは誘導されたが、NACを添加すると濃度依存性に細胞生存率は上昇し、アポトーシスは抑制された。NACを添加することで、SNPにより誘導された細胞内ROS量は減少し、p53のリン酸化、caspase-3の活性化は抑制された。次に、グルタチオンへの関与を明らかにするために、グルタチオン合成酵素阻害剤(BSO)で前処置を行い、NACの効果を検討した。BSOを添加した群ではいずれもグルタチオン量は有意に低下した。BSOの添加によってNACの細胞保護効果、抗アポトーシス効果およびROS抑制効果は消失した。さらに、in vivoでNACのOA進行抑制効果を検討した。左膝前十字靭帯を切離したSDラットのOAモデルに対し、NACの関節内注射(5mg/回、週2回)おこない、8週後に組織学的評価を行った。NACの投与群では対象群と比べて軟骨変性は抑制され、Mankin Scaleが有意に改善し、アポトーシスも抑制された。以上から、NACがグルタチオンを介してNO誘導性のアポトーシスを抑制し、動物OAモデルで軟骨細胞のアポトーシスと関節軟骨の変性を抑制することが明らかとなった。NACはOAに対する治療薬として応用できる可能性がある。
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JOURNAL OF ORTHOPAEDIC RESEARCH
巻: 30 ページ: 401-407
巻: 28 ページ: 156-163