研究概要 |
当初の計画に基づき人工関節置換手術を受けた膝関節の変形性関節症(膝OA)の症例32例から関節液を採取し、Luminexを用いて種々のサイトカイン、ケモカインを同時に計測した。また同一関節から得た関節軟骨においてMMP-13の発現レベルを解析し、それと関節液中の各因子の関連を検討した。この結果、(1)従来しばしばその関係を推察されてきた関節液中の炎症性サイトカインと軟骨中のMMP-13の発現レベルの間には有意の相関がないこと、(2)関節液中には計測した8種のMMP(MMP-1,2,3,7,8,9,12,13)のうちMMP-1,2,3が高い濃度で存在し、一方他の5種のMMPはほとんど無視しうる濃度でしか存在しないこと、(3)これらMMP-1,2,3の濃度は関節液中の他のサイトカイン、ケモカインの濃度と相関がないこと、(4)関節液においてMMP-1,3の間には有意の正の相関があり、さらにMMP-1および3とVCAMと間にはそれぞれ有意の正の相関が見られること、(5)関節液中のMMP-1および3の濃度は軟骨中のMMP-13の発現レベルと有意に相関すること、を見出した。我々はさらに関節液中のMMP-1,2,3およびVCAMの由来を推定するために同一関節から採取した滑膜におけるこれらの遺伝子の発現を検討した。この結果、関節液中におけるこれらの濃度は同一関節の滑膜におけるmRNAの発現レベルとよく関連しており、これら3種のMMPおよびVCAMはいずれも滑膜において産生され、関節液中に放出されたのであろうと推察された。 少なくとも膝関節のOAについては疾患の進行と滑膜病変の間に関連があることは臨床的に良く知られた事実である。しかし従来の研究では滑膜病変と軟骨変性を結びつける因子ははっきりしなかった。今回我々が得た知見は、OA罹患関節において滑膜でMMPの発現が亢進しており、これが関節液中に放出されて軟骨変性を誘導している可能性を示すものである。さらにこの過程には軟骨細胞におけるMMP-13の発現誘導も関与しているのではないかと推察された。
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