全身麻酔薬は意識消失、不動化および自律神経抑制などの作用を有している。近年、麻酔薬の不動化を示す指標としての最小肺胞濃度(minimum alveolar concentration:MAC)が脳ではなく脊髄レベルで決定されるという報告がある。そこで、痛みの伝達に重要な部位である脊髄後角におけるガス麻酔薬、亜酸化窒素の作用機序をラット脊髄スライス標本を用いて、後角II層細胞からホールセルパッチクランプ法により電気生理学的に解析した。0.3MAC亜酸化窒素はグルタミン酸NMDA受容体アゴニスト投与による電流および一次求心性線維Aδ・C線維刺激によるNMDA受容体興奮性シナプス後電流(EPSC)の振幅を抑制した。さらに、AMPA受容体アゴニスト投与による電流およびAδ・C線維刺激によるAMPA受容体EPSCの振幅もNMDA受容体と同様に抑制した。それに対して、亜酸化窒素はGABA_Aおよびグリシン投与による電流および局所刺激によるそれらの受容体を介する抑制性シナプス後電流(inhibitory postsynaptic current:IPSC)および微小IPSCにはほとんど影響を及ぼさなかった。以上の結果、下行性抑制系以外にも脊髄後角での興奮性伝達を抑制することが、亜酸化窒素の脊髄レベルでの鎮痛作用機序の一つであることが明らかになった。
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