全身麻酔薬は意識消失、不動化および自律神経抑制などの作用を有している。近年、麻酔薬の不動化を示す指標としての最小肺胞濃度(minimum alveolar concentration:MAC)が脳ではなく脊髄レベルで決定されるという報告がある。そこで、痛みの伝達に重要な部位である脊髄後角におけるガス麻酔薬、キセノンの作用機序をラット脊髄スライス標本を用いて、後角II層細胞からホールセルパッチクランプ法により電気生理学的に解析した。キセノン50%はグルタミン酸NMDAとAMPA受容体を抑制することで、興奮性シナプス伝達を抑制することが明らかになった。しかし、抑制性GABA_Aおよびグリシン受容体を介するシナプス伝達に対してキセノンの作用は認められなかった。In vivoの実験より、キセノンは触覚と痛覚刺激に対する応答を抑制することがわかった。以上のことからキセノンは脊髄後角における侵害・非侵害情報の伝達を抑制することで鎮痛作用を示すと考えられる。
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