研究概要 |
化学療法に伴う末梢神経障害は有効な治療法が確立しておらず,用量規制因子の一つとなっており,化学療法の減量や中止の原因となることも少なくない.また,近年,非必須アミノ酸であるL-serineは神経細胞の成長・生存に不可欠な物質であることが報告されている.そこで,抗がん剤パクリタキセルによる誘起末梢神経障害動物モデルを用いて,抗がん剤による末梢神経障害発現機序におけるL-serineの関与およびL-serine投与による末梢神経障害の改善について研究を行った 雄性SDラットにパクリタキセル2mg/kgを隔日投与し,化学療法誘起末梢神経障害モデルを作成した.投与前,投与後1週間間隔で投与開始6週後まで行動学的評価,神経伝導速度の測定,およびHPLCシステムを用いて後根神経節(dorsal root ganglion;DRG)・脊髄・坐骨神経におけるL-serineの含有量を測定した.また,DRGにおいてはL-serineの合成酵素である3-phosphoglycerate dehydrogenase (3PGDH)の発現もウエスタンブロット法を用いて測定した パクリタキセル投与により痛覚刺激に対する閾値の低下および神経伝導速度の低下が認められた.また,DRGではL-serine含有量の低下が観察されたが,脊髄,末梢神経軸策ではL-serine含有量の低下は認められなかった.DRGにおいてはL-serine含有量低下に先立って3PGDH発現も低下することが明らかとなった.そこでパクリタキセルと同時にL-serineを投与したところ0.1mmol/kgの投与で末梢神経障害の発症を抑制した.DRGは他の神経組織の血液脳関門や血液神経関門と違い,血液バリアが脆弱であり,また,3PGDHはグリア細胞に局在していることから,パクリタキセルによる神経障害はDRGのグリア細胞の障害により発症すると推測された 以上の結果よりパクリタキセルによる末梢神経障害はDRGでのL-serineの産生低下が原因となっており,L-serineの投与によりその発症を予防することが可能であった
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