研究概要 |
本研究では遺伝子変異により機能を失った変異pendrinの機能を回復させることで,遺伝性難聴を治療する革新的治療法の開発を目指している. 前年度の研究により,日本人で報告されている10種類の変異pendrinのうち2種類の変異体は野生型と同様に細胞膜へ発現し,8種類の変異体は細胞内に蓄積されることが明らかとなった.更に,サリチル酸により4種類の変異体(P123S,M147V,S657N,H723R)が細胞内から細胞膜に移行することも分かった.また,この4種類の変異体は細胞膜に移行すれば機能することも確認された. そこで,平成21年度は,サリチル酸よりも効果が高い薬剤を見つけるため,変異体P123Sを発現させたHEK293細胞に,サリチル酸と分子構造が類似した4種類のサリチル酸誘導体(サリゲニン,2-ヒドロキシアセトフェノン,2,3-ジヒドロキシ安息香酸,サリチル酸メチル)を投与し,変異体P123Sの細胞内局在を蛍光免疫染色法および共焦点レーザー蛍光顕微鏡を用いて解析した.その結果,2種類のサリチル酸誘導体(サリゲニン,2,3-ジヒドロキシ安息香酸)が,P123Sの細胞膜への移行を促進する事が分かった.サリチル酸は1mMでは変異体を細胞膜へ移行させる効果がなく,10mMでその効果が見られるのに対し,サリチル酸誘導体は1mMで同様の効果が見られた.サリチル酸は耳毒性があることが知られている.サリチル酸誘導体の耳毒性については,現在解析を進めている段階であるが,サリチル酸よりも低濃度で効果があることから,サリチル酸誘導体が,副作用が少ない治療薬となる可能性が示唆された.
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