研究課題
一過性内耳虚血は突発性難聴の有力な原因の一つであるが、その発症機序や病態は未だ不明である。本研究では本症の病態解明と新しい診断・治療法の開発をめざし、1)虚血負荷により内耳に発現する遺伝子やタンパク質を解明する、2)内耳における虚血耐性メカニズムの存否を検証する、3)虚血障害を防御する2種類の薬剤の効果を確認する、の3項目について従来からのスナネズミを用いた方法で研究を進めた。このうち前二者については昨年まで研究でほぼ予定通りの研究成果が得られている。すなわち1)については、虚血負荷によりGPCRs Class A Rhodopsin-likeやPeptide GPCRsをコードする遺伝子の発現が顕著であった。したがって、突発性難聴患者でこれらの遺伝子や蛋白が確認できれば虚血原因説が実証できることになる。2)については、軽度虚血を先行負荷すると高度虚血によりダメージは有意に軽減された。すなわち、内耳にも脳や心臓と同様、虚血耐性のメカニズムが備わっていることが確認された。そこで平成22年度の研究では内耳を保護する薬剤として、アポトーシス阻害剤であるAM-111と人工酸素運搬体の効果を検討した。その結果、1)虚血後にAM-111を添加したゼラチンを正円窓上に留置すると、虚血による内耳障害は濃度依存性に軽減された。本剤の効果は非特異的であり、欧州では現在、第II相臨床試験が実施されている。2)人工酸素運搬体も虚血障害に対して極めて有効な薬剤であり、虚血後に静注することによりコントロール(生食静注)と比べABR域値上昇や内耳有毛細胞脱落率は有意に軽減された。この物質は、ある企業が人工赤血球として開発中の物質であり、現在のところ臨床試験はできないが、内耳保護効果が大きく副作用もないことから、虚血性内耳障害の治療薬として大いに期待できる。
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ANL
巻: 37(5) ページ: 626-30
BMC Neurosci
巻: 20(14) ページ: 1-11