研究概要 |
われわれは、今回、老人性難聴のうち有毛細胞、神経細胞を中心に、細胞維持と易受傷性という観点から老人性難聴の個体差が生じるメカニズムについて解明することを目的としている。Ebi遺伝子はハエ複眼の形成過程で必須な遺伝子であるが、ヒトでもTBL1というホモログが存在し、タンパク質の分解と転写抑制に働いている(Tsuda, L. et al., Cell 110 : 625-637、2002)。興味深いことにTBL1は加齢性聴覚異常疾患の一つOASD(ocular albinism sensorineural deafness)の原因因子でもある。Ebiはユビキチンリガーゼとしてタンパク質の分解に働くと同時に転写コリプレッサーとして転写を負に抑制する因子である。OASDモデルマウス(有毛細胞にのみ限局してebiを発現させている)を用いて加齢変化を検討した。まず聴性脳幹反応(ABR)にて8週齢では60±10.4dB(4kHz),73.4±3.2dB(12kHz),72.4±5.0dB(20kHz)、16週齢では89±5.8dB(4kHz),95±5.8dB(12kHz),95.8±4.8dB(20kHz)と有意に加齢に伴い進行する難聴を確認した。また電子顕微鏡により16週齢マウス蝸牛では有毛細胞脱落を認めた。次にOASDモデルマウスと野生型マウスについて易受傷性を比較するため、巨大音響負荷による変化を観察した。音響曝露の条件はBroadband noise(31.5Hz~8kHz)、96dB SPL、2時間とした。また、OASDモデルマウスでは音響曝露後後の域値上昇が継続し、野生型マウスに比べ易受傷性の傾向を認めた。老人性難聴の聴力の程度には個体差が存在するが、その原因は不明である。われわれは、その個体差が細胞の維持機構や易受傷性に一因かおるのではないかと考えて検討したい。 また、DNAの酸化障害である8-オキソグアニンを除去する酵素(8-オキソグアニン-DNAグリコシラーゼ)をコードするOgg1遺伝子が欠損したOGGノックアウトマウスと野生型マウスにおける聴力域値の経時的な変化を比較検討した。聴覚機能評価には聴性脳幹反応を用いて、生後8週齢と6カ月の時点で測定した。聴力域値変化の結果は、各周波数(4,8,16kHz)においてOGGノックアウトマウス(34.3,34,43.9dB)、野生型(24.1,17,28.6dB)と有意差をもってノックアウトマウスに聴力低下を認めた
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