本年度は、濾過胞が形成されにくい緑内障病型である血管新生緑内障に対するトラベクレクトミーの手術成績を解析し、その手術成績を薬物療法で改善する研究をおこなった。まず、血管新生緑内障に対してトラベクレクトミーをおこなった症例の手術成績を解析したところ、5年間眼圧維持率は51.7%であった。その手術成績は患者背景因子に大きく依存しており、硝子体手術の既往症例が手術予後不良因子であることを我々は報告した(Am J Ophthalmol 2009)。一方、独立した新たな調査で、硝子体手術の既往眼のトラベクレクトミーの術後成績を解析したところ、緑内障病型の中では、血管新生緑内障を合併した症例が予後不良であることがしめされた。さらに、手術によって生じる結膜瘢痕が濾過胞の形成を阻害することを定量的に証明した(Graefes Arch Clin Exp Ophthalmol 2009)。以上の結果は、血管新生緑内障自体が予後不良であるだけでなく、硝子体手術による結膜瘢痕形成もトラベクレクトミーの手術予後を著しく悪化させていることを示している。我々は、血管新生を阻害する薬剤である抗VEGF抗体(ベバシズマブ)をトラベクレクトミーの術直前に投与する補助治療を検討した。ベバシズマブの投与によって術中術後の血管新生の退縮効果が得られ、術中術後の前房出血の合併症を軽減することができ、術早期のトラベクレクトミーの成績を改善した。しかし、一方で、術後1年後までに、眼圧が再上昇する症例がみられ、特に硝子体手術の既往のある症例の予後は極めて不良であった(J Glaucoma in press)。血管新生緑内障の手術成績をさらに改善するためには、硝子体手術の既往眼でみられる結膜瘢痕を改善する処置の必要性がある。
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