集中治療医学における循環管理は、専門技術と豊富な経験を必要とし、患者の生命予後を直接決定する重責を担う高度医療である。一方、医師の身体的負担や、心理的ストレスは大きい。特に地方の医療過疎地では医師不足が深刻化し、過労を背景とした人為的ミスが医療過誤を招き、社会問題となっている。研究チームは、この状況を打開するため、集中治療医学を支援する自動治療システムの開発を目指している。本研究では、循環動態の自動診断治療システムのプロトタイプ装置を開発に取り組んだ。循環システムは、循環特性(心臓ポンプ機能・有効循環血液量・血管抵抗)が循環動態(血圧・心拍出量・心房圧)を決定する機能構造である。循環治療薬は、直接には循環特性に作用するため、循環特性反応は個体差が相対的に小さく、一方、循環動態反応はばらつきが大きく制御困難である。そこで、薬剤投与による直接の制御対象を循環特性とし、循環特性の正常化を通して循環動態を正常化するようにデザインする。まずプロトタイプとして、心不全モデル動物(イヌ)の薬物投与-循環特性応答の平均的特性を用いて治療アルゴリズムを構築し、正常から重症左心不全に至る個体差を制御によって吸収するような制御治療システムを開発した。さらに、患者個体差や病態の時間的変化に高度に対応した治療を目指して、制御工学の適応制御をシステムに組込み、その時刻の患者特性をシステム同定し、患者個人に特化した治療を行うような自動治療システムを試作した。また各種エラーに対応するためのアルゴリズム(次善治療の継続機能、アラーム機能など)を検討した。
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