平成21年度の研究により、ホスファチジルセリン含有リポソーム(PSL)が骨芽細胞の分化・成熟を促進することを明らかになったため、平成22年度はラット胎仔頭蓋冠由来細胞による骨芽細胞初代培養系を用い、PSLが骨芽細胞の分化・成熟を促進するメカニズムの解析を行った。ラットの胎仔頭蓋冠の小骨片を酵素処理し、21日間培養した。PSL添加後7、14、21日目に骨芽細胞を回収し、トータルRNAならびに細胞可溶分画を調整した。リアルタイムRT-PCRにより骨芽細胞におけるその分化を促進因子であるトランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF-β)ならび骨芽細胞への分化を決定因子であるRANX2の発現を検討すると共にウェスタットプロットによりMAPK/Erkシグナルカスケードも解析した。その結果、PSL投与後4日目からRANX2発現は有意に増加され、PSL投与後7日目からTGF-β発現の有意な増加も認められた。さらに、PSL投与60分後に骨芽細胞におけるErkのリン酸化の有意な増大も認められた。一方、PSLにより骨形成の作用を検討するため、ラットの切歯抜歯モデルを用い、PSLを投与したラットの抜歯窩周囲の骨密度をμCTにて解析した。その結果、PSL投与4週間後抜歯窩周囲の骨形成は有意に増大し、免疫染色により骨形成部位にTGF-βの高発現も認められた。以上の結果より、PSLはMAPK/Erkシグナルカスケードを介してTGF-βならびにRANX2の発現を増加させることで、骨芽細胞の分化・成熟を直接促進することを明らかになった。
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