研究概要 |
研究1:破骨細胞分化に関する研究 【目的】転写因子NF-κBは破骨細胞の分化や骨吸収機能の調節に重要な役割を担っている。NF-κBの活性化機構は、IκBキナーゼ(IKK)βによるIκBのリン酸化と分解を伴う古典的経路と、NF-κB-inducing kinase(NIK)によるIKKαの活性化とそれに続くNF-κB2のp100からp52へのプロセシングが関与する非古典的経路が存在する。今回我々は、自然発症型免疫不全マウスであり、NIK遺伝子に機能欠損型の点変異を有するaly/aly(aly)マウスを用いて破骨細胞分化における非古典的経路の役割について検討した。 【方法と結果】4週齢の野生型およびalyマウスの脛骨の組織切片を作製し、von Kossa染色および酒石酸抵抗性酸ホスファターゼ染色を行ったところ、alyマウスは野生型と比較して破骨細胞数の減少と著明な骨量増加が認められた。野生型およびalyマウスの骨髄細胞をM-CSFとRANKLで刺激したところ、alyマウスでは野生型と比較して、破骨細胞形成が抑制された。alyマウスの骨髄細胞に恒常的活性型IKKαおよびNFATc1を過剰発現すると破骨細胞形成の抑制は回復した。破骨細胞が野生型マウス同様に存在するNF-κB2欠損マウスにp100のみ過剰発現させると破骨細胞形成は抑制され、p52のみ過剰発現させると破骨細胞形成は促進された。 【考察】NF-κB2前駆体p100は破骨細胞形成を負に調節し、p100のプロセシングにより誘導されるp52は破骨細胞分化を促進すると考えられる。以上の結果から、NF-κB2のp100とp52の発現バランスが破骨細胞分化の調節に重要であることが示唆された。 研究2:骨芽細胞分化に関する研究 【目的】Bone Morphogenetic Protein:BMPは現在、骨誘導因子として最も有望であるが、歯周病やインプラント等の臨床現場において安定した効果が得られていない。その理由として歯周病に代表される慢性炎症の場で産生される炎症性サイトカインがBMPの効果を減弱させる可能性が考えられる。さらに炎症性サイトカインTNFαがBMP2による骨芽細胞分化誘導を抑制することが報告されている。本研究ではTNFαの細胞内情報伝達経路で中心的な役割を担うNF-κBによるBMPシグナルの抑制機構と骨芽細胞分化への影響を解明することを目的とする。 【方法と結果】MC3T3-E1細胞をBMP2で刺激するとアルカリホスファターゼ(ALP)活性が上昇した。しかし、TNFαで前処理すると、ALP活性の上昇が抑制された。次にMC3T3-E1細胞をTNFαで前処理しBMP2で刺激した後に、経時的にタンパク質を調製し、Smadのリン酸化と核移行を検討したところ、TNFαの前処理はBMP2によるSmad1/5/8のリン酸化と核移行を抑制しなかった。p65-/-MEFにp65遺伝子を強制発現するとNF-κBの転写活性はp65の濃度に依存的して上昇した。一方、BMP2で刺激すると、Id-1のルシフェラーゼ活性はp65の濃度依存的に抑制された。またp65siRNAおよびBAY11-7082で前処理を行った後、TNFα、BMP2処理を行うとTNFαにより抑制されたId-1ルシフェラーゼ活性はほぼ回復した。また恒常的活性型Smad1DVD、Smad4、およびp65を遺伝子導入するとSmad1DVDとSmad4によるId-1ルシフェラーゼ活性の上昇は抑制されたが、p65の抑制分子IκBαを遺伝子導入させると、p65によるId-1ルシフェラーゼ活性の抑制はほぼ解除された。さらにSmad結合領域のプローブを用いてゲルシフトアッセイ法を行ったところ、TNFαの前処理でSmad1, 4のDNAへの結合が阻害された。NF-κBの選択的阻害剤であるBAY11-7082で前処理の後、TNFαおよびBMP2処理を行い、DNAの結合能およびALP活性を測定したところ、BAY11-7082の濃度依存的にTNFαによるSmad1, 4のDNAへの結合抑制は解除され、ALP活性もほぼ回復した。 【考察】以上の結果より、NF-κBはSmad1,4のDNA結合を阻害することで、BMPによる骨芽細胞分化を抑制することが明らかとなった。
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