腫瘍組織内酸素分圧の上昇作用やHIF-1αの発現抑制作用を有している一酸化窒素(NO)と化学・放射線療法との併用効果について、マウス背部皮下に口腔扁平上皮癌細胞を移植して形成させた腫瘍を用いたIn vivoの系ならびに口腔扇平上皮癌症例における臨床試験において検討し、以下の結果を得た。 1)BALB/cマウスの背部皮下に移植した口腔扁平上皮癌細胞(OSC-4)に対する5-FUの抗腫瘍効果は、NO供与体であるニトログリセリン(NTG)を併用することにより増強し、NTG併用群における腫瘍中心部の壊死体積は非併用群に比べ有意に高値であった。 2)腫瘍組織におけるHIF-1αおよびHIF-1α標的遺伝子産物の発現を免疫組織化学的に検討したところ、NTG併用群ではHIF-1α、VEGF、GLUT-1およびP-gpの発現が有意に低下しており、腫瘍組織より回収したRNAを用いた定量的RT-PCR解析においても同様の結果が得られた。 3)口腔扁平上皮癌症例において、化学・放射線療法と併用してNTGを投与し臨床病理組織学的効果を非投与群と比較検討したところ、投与群では非投与群に比べ化学・放射線療法の奏効率が高い傾向が認められた。 4)NTGの臨床併用効果は生検材料におけるHIF-1αの発現強度と正に相関していた。 5)NTG投与による明らかな副作用は認められなかった。 以上の結果より、口腔扁平上皮癌において、NO供与体は一部HIF-1αおよびその標的遺伝子産物の発現抑制を介して、化学・放射線療法の治療効果を増強させうることが示唆された。
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