研究課題
脳機能は、脳に内在する分子基盤に立脚して営まれている。したがって、脳内のシナプス、神経細胞ならびにグリア細胞に発現している受容体、もしくはニューロン分布する神経伝達物質の動態を明らかにすることができれば脳の可塑性をも明確に説明できると考えられる。本研究では、歯の欠損が無く歯科的処置を必要としない健常被験者と、歯の欠損を有し可撤性義歯による処置を必要とする被験者を対象とし、口腔内環境の変化が及ぼす脳内受容体への影響をポジトロン断層撮影(PET)による脳内受容体の機能画像から解析することにより、口腔内環境の変化が脳可塑性に及ぼす影響を検索することを目的としている。本年度は、本研究に適合する被験者の選定を試みたが、積極的に協力が得られる者は少なかった。一方、歯の欠損により、口腔感覚の低下や咀嚼障害がしばしば生じることが知られていることから、運動機能のみならず意思決定などの認知機能にも関与する大脳基底核の主要構造である線条体の機能変化を検索することが適当であると考えられた。そこで本年度は、咀嚼量の違いがラット脳線条体におけるドーパミン神経系に及ぼす影響をpositron emission tomography (PET)およびマイクロダイアリシス法(MD)を用いて明らかにすることを試みた。固形食または粉末食を与えて8週齢及び60週齢に達するまで飼育したF344雄性ラットのPETの結果、60週齢において粉末食群は固形食群に比べ11C-RACの集積が低くなる傾向があった。また、MDでは、8週齢及び60週齢ともに粉末食群が固形食群に比べドーパミン放出量が多くなる傾向があった。これらの結果より、咀嚼の違いはドーパミン神経系に対して、分子レベルの影響を及ぼす可能性が考えられた。
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Oral Disease
巻: 17 ページ: 407-413
日本補綴歯科学会雑誌
巻: 3 ページ: 126-134