研究概要 |
本年度は,下顎第一大臼歯部の顎骨のCTデータから皮質骨と海綿骨の骨量を定量的に分析することにより,下顎骨における皮質骨と海綿骨の骨量関係を明らかにしてヒト下顎骨の表現型の様相を探った.2007年5月から2009年1月までにインプラント術前CT検査を受け,福岡歯科大学倫理委員会の承認と同意を得た,少なくとも片顎に第一大臼歯を有する女性患者44名を被験者とした.下顎第一大臼歯の近心根部のCT横断画面像(SimPlant Pro 12.03)上で,歯根膜腔下縁3mmから下顎骨下縁までの顎骨領域から皮質骨骨量(皮質骨面積/顎骨総面積,%)と海綿骨骨量(hounsfield units,HU)を測定した.反体側の同歯を欠損する患者36名の同歯欠損顎骨領域においても同様の測定を行った.皮質骨と海綿骨の骨量関係は,必ずしもLekholm&ZarbやMischの分類のような単純な比例関係にあるわけではなく,皮質骨が厚いにも関わらず海綿骨が少ない患者や逆に皮質骨が薄いにも関わらず海綿骨が多い患者が存在し,皮質骨と海綿骨の骨量の間には相関性が認められなかった.皮質骨と海綿骨の骨量関係には大きな個人差が認められたが,同一患者内での歯がある側とない側の両骨の骨量関係には高い相関性が認められ,下顎第一大臼歯部の顎骨領域の皮質骨と海綿骨の骨量関係は歯の有無に影響されない可能性が示唆された.皮質骨と海綿骨の骨量を指標とした下顎骨の表現型には多様性があり,それが歯の有無に影響されないことを考え合わせると,他の部位の骨のように下顎骨の表現型は遺伝子支配を強く受けている可能性が推察される.
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