研究概要 |
偏側にのみ下顎第一大臼歯を有する男性患者36名(平均年齢55.9歳)と女性患者55名(平均年齢55.8歳)のインプラント術前CT画像から,下顎第一大臼歯部(有歯側と無歯側)の基底骨の皮質骨量と海綿骨量を定量し,両骨量の年齢との関係の性差を調べた.男女ともに有歯側と無歯側の間に皮質骨量の有意な相違は認められなかったが,海綿骨量は有歯側に比べて無歯側で有意に高い値を示した.男性においては有歯側,無歯側ともに,年齢と皮質骨量との間に有意な相関は認められず,年齢と海綿骨量との間も同様であった.女性では有歯側,無歯側ともに,年齢と海綿骨量との間に有意な相関が認められなかったが,年齢と皮質骨量との間に有意な負の相関が有歯側,無歯側ともに認められた.以上より,男性とは異なり,女性では歯の有無に関わらず下顎大臼歯部の基底骨の皮質骨の厚みが加齢とともに減少する可能性が見出された. 次に,加齢に伴う骨基質の変化の分析のために献体(男性27名(平均年齢76.7歳),女性21名(平均年齢83.9歳))を用いて下顎骨のミネラルとコラーゲンの分析を行った.ミネラル量,コラーゲン量,コラーゲン分子中のリジン残基の水酸化の程度に有意な性差は認められなかった.年齢とミネラル量,コラーゲン量およびコラーゲン中のリジン残基の水酸化の程度との間に有意な相関は認められなかった. 以上を総括すると,下顎骨の骨量は女性で加齢とともに皮質骨量が減少する傾向があるが,男女ともに個人差が大きく,主要な骨基質成分であるミネラルとコラーゲンは加齢により量的変化が起こるとは考えにくく,歯科治療に役立てるための下顎骨の理解は骨量と骨質の加齢変化に着目するよりも,むしろ患者個人の多様性に着目すべきと考えられた.ミネラルとコラーゲンを指標とした骨質の分析が歯やインプラントの予知診断として重要であると思われる.
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