発音運動における中枢機構は、想起段階および運動遂行段階の2つに大きく分けられる。近年、健常者を対象とした研究において各段階における脳賦活部位が明らかにされてきている。一方、口唇口蓋裂(CLP)患者では、発音時の脳賦活部位が健常者と異なることが示唆されているが、中枢機能のどの段階に障害があるかは不明である。本研究では、非侵襲的脳機能画像法であるfunctional MRIを用いて、CLP患者と健常者の破裂音発音時・無発音時の脳賦活領域を比較し、CLP患者の発音障害について中枢脳機能から評価することを目的とした。成人片側口唇口蓋裂(UCLP)患者2名および両側口唇口蓋裂(BCLP)患者1名とCLPを有さない健常者6名(平均年齢26.3歳)を被験者とした。1.5TのMRI装置において、gradient echo typeのecho planar imaging法を用いて撮像を行った。発音する音節は/ka/とし、(1)発音する語を想起する(C)、(2)声に出して発音する(0)の2課題を行った。被験者に約1.5Hzの頻度で35秒間、5回繰り返させ、その前後に35秒間の安静状態を挿入するブロックパラダイムとした。これを1 sessionとして、各課題につき2 session行った。データの画像処理および統計解析には、Matlab及びSPM2を用いた。その結果、C課題においては、CLP患者、健常者における脳賦活部位に差が見られなかった。0課題においては、UCLP患者の発音時の口腔領域の動きは健常者と類似しており、共に一次感覚運動野、小脳の賦活が見られたのに対し、BCLP患者ではそれらの賦活が見られず、帯状回が賦活した。以上の結果から、0課題においてBCLP患者では呼吸制御に関連した帯状回の賦活が見られ、適切な発音が困難であることと無意識の代償性構音、意識的な発音と呼吸との関連を示していると考えられた。また、小脳の賦活も見られず、中枢神経系において小脳を経由した制御機構が欠如している可能性が考えられた。C課題においては被験者間にほとんど差が見られなかったことから、BCLP患者の中枢機能は、発音運動中の最後の段階である声に出すという部分でのみ健常者と異なることが明らかになった。
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