研究概要 |
今年度の研究事業では,健康情報を収集するのに有効な歯周病診断キット開発に関連して2つの研究プロジェクトを展開した.まず,歯周病がグラム陰性嫌気性菌による感染症であるとともに,歯周局所における炎症性疾患であるということから,歯周ポケットからの歯周病細菌の検出,歯周病細菌が産生する歯周組織破壊因子(酵素・毒素・代謝産物など)の定量化,および歯周組織における炎症の遷延度の判定を一つの測定キットで行える機器の開発を進めた.これまでに,これらの諸因子を判定するには,抗原・抗体反応を用いて測定する方法と酵素活性測定ではバイオセンサーが有効であることを実証した.さらに,それらを組み合わせることで,歯周病の病態を把握できることが明らかとなった.次年度は,ぞれぞれのセンサーを用いることで,歯周病の活動性や予後の判定などが行えるか否かを判定することを目指す. 次いで,歯周病と心血管系の疾患との因果関係を明確にするために,心疾患系疾患における梗塞巣の形成に,歯周病あるいは歯周病が産生する特定の因子がどのようにかかわるのかということを分子生物学的手法で解析した.それに先んじて,我々は,梗塞形成を顕微鏡下で観察するために,微小流路を形成したチップを作成し,その有効性を確認した.この実験系を用いて,歯周病細菌由来のLPSで刺激した単球・マクロファージ系の細胞が微小流路で梗塞巣の形成を増強することを明らかにした.さらに, LPSで刺激した単球・マクロファージ系細胞は細胞表層に細胞接着因子を高発現することを確認した.興味深いことに,この高発現した細胞接着因子の機能を阻害することにより,微小流路中の梗塞巣の形成が著しく阻害された.以上の結果から,この微小流路の実験系は,今後,歯周病と梗塞巣形成のメカニズム解析に有効となることが強く示唆された。
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