本年度は、耐性菌保菌者の施設問移動の実態と行政における耐性菌感染予防対策の現状を明らかにすることと、これまでの成果をもとに、モデル地域での医療施設のネットワークを構築することを目的とした。 モデル地域で調査協力の了承が得られた医療機関で平成22年1月から12月の期間にESBL-E.coli、2剤耐性aeruginosa MDRPのいずれかが検出された患者の入退院動向並びに看護ケアについて、診療録並びに看護記録をもとに調査した。その結果、耐性菌が検出された外来患者の内、入院歴がなく、抗菌薬の投与がない患者が29.1%を占めており、市中でも耐性菌が拡大していることがわかった。また、耐性菌が検出された入院患者の入院前の所在は自宅が多かったが、退院先は医療機関が41.6%と最も多く、医療機関間で移動している患者が多かった。しかし、患者や家族に耐性菌検出についての説明がない割合が高く、さらに転院・入所先への耐性菌情報の提供の割合が低かったことから、医療機関同士での情報交換が行われていないことが明らかとなった。 また、行政機関に所属する看護職である保健師を対象に、行政機関の耐性菌感染に対する関わりの実態と課題に関する面接調査を実施した。その結果、医療機関からの感染管理の問い合わせには、保健師等は直接、関わっておらず、事務職が担当している場合が多いことが示された。以上の結果から、耐性菌拡大防止に向けたケアシステムを構築するためには、行政機関と医療機関の感染管理の専門家が連携して、医療機関のケア実践の向上につながるような感染管理の知識に基づいた教育ができるようなシステムを構築することが必要であることが示された。これらの成果をもとに、インターネットを利用した情報提供と教育のための会員制のシステム案を多職種間で検討して作成した。
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