伝統的な技術でおこなわれてきた農耕は、ある特定の生業に特化するのではなく、農耕、漁撈、狩猟、採集といった生業を複合的におこなうことに特徴があり、これが生態的な環境の多様で持続的な利用につながってきた。本研究では、中国・海南省の五指山地域と、雲南省紅河州金平県者米地域、そして怒江上流の丙中洛の3つの地域をとりあげ、伝統農耕の実践と政府主導による開発、そして自然環境という3者を、動的なシステム(いきすぎた開発と環境の復元力)としてとらえ、その関係性の解明を目的とする。 対象とする3つの地域の現象は「エスノ・サイエンスによる伝統農耕と環境保全技術」「共同体意識と環境保全」「地域社会の交易とグローバルな市場経済の影響」など、アジア地域の環境問題を考える上で重要な視点を含んでいる。 中国の急速な経済発展は、さまざまな社会的矛盾を生み出すだけなく、激しい環境破壊をもたらした。2006年から開始した第11次5カ年計画は、中国政府が推進している「小康社会(生活に多少ゆとりのある社会)」の達成に重要な役割を担うものと位置づけられている。特に経済を持続可能な成長モデルに転換するため循環型に切り替え、生態系の保護、省エネルギー、資源節約、環境にやさしい社会の建設を加速するといった環境政策の大変革をおこなおうとした。しかし昨今の中国の公害問題が意味するように、経済発展が至上目標であるという点はまったく変化がない。中国において地域社会を維持してきた特徴の一つとして市の存在がある。市を介して地域内で各家庭単位での参加と「小商い」が可能な市がある程度の自給的な経済活動を維持してきた。そのことが環境保全や地域社会の生業経済を両立させることに結びついてきたと考えられる。環境保全と生業経済を両立させようとするならば、地域社会の生活と経済に深く結びついた市を維持、または復活させる必要があると考えられる。
|