本研究では湖南省藍山県に居住する過山系ヤオ族の伝承する宗教儀礼の中で最上級の通過儀礼である度戒儀礼の総合的な調査研究を行なう。儀礼全体の内容について詳細な記録を残すことは無論だが、中でも儀礼の進行に必要不可欠な儀礼文献及び文書が儀礼的実践の中で、どの段階で、いかなる目的をもって使用されるか、記録することに重点を置く。ヤオ族の儀礼はある意図をもって動作と読誦によって構成され、礼拝する、足のステップを踏む、手の指を組む、符を書く、水を撒く、回転する、供物を捧げるといった動作と、儀礼文献の本文や、常用する曲詞や演劇的科白、その都度神に向かってしたためられる儀礼文書、秘訣の呪文の読誦が同時並行で行なわれる。動作と読誦の両面を空間と時間にわたってしっかりした記録にとどめることによって、今まで充分に行なわれてこなかったヤオ族の儀礼の全容が明らかになり、その上で分析を行なう。還家愿儀礼・葬送儀礼・治病儀礼等のその他の儀礼を調査し儀礼全体の理解を深める。 収集した儀礼文献・文書の解読分析を進め、道教儀礼やその他の地域の民間祭祀儀礼等との比較を進め、文献学的儀礼研究と接合を行ない、儀礼史の上に体系的に位置付ける。歴史的な儀礼文献との比較を行なうことは、現代に至る道教儀礼の歴史的変遷をヤオ族の儀礼に通観することになる。さらにヤオ族の文献を収集している国内外の諸機関で資料の閲覧収集を進め、藍山県の文献との比較を行なうことで藍山県の文献の個性と普遍性を明確にする。
|