研究課題
フィールドワークとして、平成21年7月下旬から9月上旬まで、トルコ共和国において考古学的な調査を実施した。昨年度に引き続き調査対象としたのは、新石器時代の社会システム再編期に当たると考えられる土器新石器時代の遺跡サラット・ジャーミー・ヤヌである。本年度の発掘調査では、住居跡、2つのタイプの炉跡、台状遺構、貯蔵穴などが数多く検出され、本遺跡最古期の集落構造を把握することができた。いずれも各世帯が日常的に使用する遺構ばかりであり、先行する先土器新石器時代の遺跡にみられるような集団で儀礼を営むための公共的建築物は確認されなかった。遺構に関して興味深い点は、建物が廃絶される際に建物内部が意図的に埋められ、乳児・幼児の埋葬がまとめて行われていたこと、層位が違ってもピゼ壁の建物がほぼ同じような位置に継続的に構築されていることである。また、この地域最古の土器群がまとまって検出され、西アジアにおける土器の起源に迫る資料が得られたことも大きな成果であった。中には煮炊きに使用されたと考えられる痕跡の認められるものもあり、理化学的な分析も援用し土器の機能・用途を明らかにする研究も進めている。昨年度の成果も合わせて総合化すると、土器新石器時代における集落規模の縮小、公共的建築物の消失、威信財の減少という姿がより明確となり、先土器新石器時代的社会システム崩壊後の状況について具体的資料を基に描くことが可能となってきた。動物骨の分析からは、ヤギ、ヒツジ、ウシ、ブタの4種の家畜が既に存在すること、下層ではブタの重要性が際立ち、上層に向けてヤギ・ヒツジが増加することなどが明らかになった。植物遺存体の分析ではムギ類やマメ類などの栽培種が検出された。このように、土器新石器時代の社会は農耕牧畜を基盤とするものであったが、社会システムの面では逆に衰退しているような状況が窺われ、生業と社会の関係を改めて問い直す必要が出てきた。
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平成21年度考古学が語る古代オリエント
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