研究課題/領域番号 |
20401033
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
杉本 智俊 慶應義塾大学, 文学部, 教授 (80338243)
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研究分担者 |
月本 昭男 立教大学, 文学部, 教授 (10147928)
越後屋 朗 同志社大学, 神学部, 教授 (80247791)
牧野 久実 鎌倉女子大学, 児童学部, 准教授 (90212208)
佐藤 育子 日本女子大学, 文学部, 講師 (80459940)
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キーワード | 一神教 / 考古学 / イスラエル / アスタルト |
研究概要 |
本研究課題『古代イスラエルにおける一神教の成立過程に関する考古学的研究』を遂行するため、平成21年度は研究代表者の杉本がテル・レヘシュ遺跡から出土した「生命の木」の図像の刻印された鉄器時代土器の意義を研究し、日本オリエント学会及び『オリエント』誌に発表した。これは、初年度に行った「古代イスラエル出土の宗教関連考古遺物と一神教の成立過程」というプログラム的論文を各論的に発展させたものである。テル・レヘシュ遺跡は研究分担者の月本の指揮で現在発掘されている。一般に「生命の木」の図像は青銅器時代(カナン人の時代)の土器に頻繁に見られ、豊穣女神の象徴と理解されるものであるが、これが聖書の視点では一神教になったはずの鉄器時代(イスラエル時代)に見られるこちは不思議な現象である。杉本は当該時期の他の図像資料や碑文資料との比較から、カナン時代とイスラエル時代では同じ「生命の木」の図像の意味が読替えられており、イスラエル時代にはヤハウェの祝福の象徴の意味を持つようになったことを論じた。これは、イスラエルでヤハウェ一神教が成立した時にそれまでの多神教的要素をどう組み入れたのか、またその時期がいつ頃であったのかを知る上で重要な知見である。本年度は、これと関連した課題である「ユダ式柱状土偶」に関して研究を進める予定である。 本研究では、これら宗教遺物の研究と平行して、新たな宗教関連考古資料を得ることを目的に発掘調査を行っている。初年度杉本はテル・レヘシュ遺跡で調査を行ったが、担当地区が終了したので、新たにエン・ゲヴ遺跡の調査を開始した。エン・ゲヴはイスラエル・ガリラヤ湖東岸に位置する遺跡で、イスラエル王国の最初期には同盟国ゲシュルが位置し、その後は敵対したアラムがいたと考えられる地域である。この間の物質文化の変化は、初期イスラエルの宗教に対して近隣諸国がどのような影響を果たしたかを知る上で貴重な資料となる。残念ながら初年度はまだ明確な宗教遺構は検出されていないが、テルの最高標高地点と上の町の周壁付近から非常に上質な漆喰が敷かれた大きな床が出土しており、神殿、宮殿等の公共建造物の一部であることが期待れる。この点については、本年度も継続して調査を行い、より明確な情報を得る予定である。尚、昨年度の成果は、American Schools of Oriental Research年次大会、Hadashot Arkheologiyo誌に英文で報告されており、日本語では西アジア考古学会、『史学』誌などに報告されている。 また、本研究では平成23年3月に「アスタルテ女神に関する国際カンファレンス」を開くことを計画している。アスタルテは、古代近東全域でもっとも広く崇拝された女神で、イスラエルのヤハウェ一神教の脅威となった存在である。このカンファレンスには杉本、月本、佐藤、越後屋が発表あるいは司会で参加することを予定している。昨年度はこのカンファレンス実施のために実行委員会を立ち上げ、会場の確保、外国からの招聘学者たちとの交渉等を行った。
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