本研究の目的は、古代イスラエルにおける一神教の成立過程を考古学的にとらえ、一神教文化と多神教文化のダイナミズムを理解することにある。これまでこの地における一神教の成立過程については、聖書の文献学的研究や宗教学からさかんに議論されてきたが、これらの研究は聖書自体の宗教的意図や各研究者の思想的前提に影響される面が大きく、限界が感じられてきた。そこで本研究は、聖書から独立した資料の得られる考古学的研究から、新たにこの問題解明の視点を得ようとするものである。 具体的には、以下の3つの側面から調査を行う。(1)イスラエル王国成立当初イスラエルと同盟を組んだにも関わらず、後にアラム領に入り多神教的文化を形成するに至った隣国ゲシュルの代表的都市エン・ゲヴ遺跡の発掘調査を行い、イスラエルとその周辺地域の宗教意識の違いを明らかにすること。(2)イスラエルにおける発掘調査、とりわけ日本隊の調査、によって得られた宗教遺物(土偶など)を総合的に分析し、宗教的象徴に反映される一神教の概念の変化を理解すること。(3)当時の多神教の代表的女神であるアスタルテの性格が地域と時代によってどのように変化したかを考古遺物から捉える国際カンファレンスを開催し、イスラエルと周辺地域の宗教観の違いを明確化し、一神教成立の背景を理解すること。このカンファレンスは一般公開とし、将来英文で研究書として出版する。
|