平成22年度中に3次の現地調査を行った。7月および9月はバングラデシュ・ジョソール県、12月がネパール・ナワルパラシ郡の調査である。 当該年度の研究では、砒素中毒患者の貧困化の実態を調査分析するため、ジョソール県オバイナゴール郡のプレムバグ、チョルシア、シュンドリの3ユニオンにおいて、早期の患者発見と現地の医療機関に患者登録すること、およびいったん発症した砒素中毒患者に対する収入向上を含めた支援の方法について調査を行った。また、これまでの砒素対策事業で建設された安全な水を供給するための代替水源の利用状況についても、ジョソール県シャシャ郡において、個々の水源利用状況を調査し、より継続的な水源運用方法について分析を行った。特に、ゴガ・ユニオンでは過去5年間に建設されたほぼすべての代替水源施設を対象に調査を行った。 ネパールでは、バングラデシュで見られるような経済的な貧困と砒素汚染に起因する健康被害の関係に加えて、社会的な差別に起因する人間貧困の状態と砒素中毒の発症の関係について研究を進めた。具体的には、これまでの分析で認められたカースト制度の不可触層がより深刻な砒素による健康被害を被っているという状況に関する情報を収集するため、不可触層が住民の約3分の一と通常の村落に比べて多く居住するナワルパラシ郡ウンワチ村を対象に世帯調査を行った。その結果、この村では必ずしも不可触層のみが被害を受けているわけではないことが明らかになった。
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