本研究の目的は、ミレニアム開発目におけるHIV/AIDSを中心とする感染症への具体な対応策を検討する為、アジア新興国及びアジア太平洋地域を4年間にわたり、医療人類学的視点から調査することである。従って、初年度の平成20年度では、成田弘成(研究代表者)は、アジア新興国の担当者としてインドを計6週間、太平洋地域のパプアニューギニアを2週間、調査を行った。新興国インドの調査の重要性は、近年、同国のHIV/AIDSが増加しているのにも関わらず、その実態把握が困難なことであったが、本研究調査により、同国の感染症対策にも内発的発展の兆しが生まれつつあることが明確になった。ムンバイなどインド都市部ではNGOを中心とする活動が活発化し、またスラム街への社会的関心も高まりつつあった。また新興国らしく企業の地域貢献に感染症対策も盛り込まれた事例も確認した。しかし、インド国内でも近代化に大きな地域差があり、伝統的寺院 文化の売春制度デバダシもまだ存続しおり、こうした女性や貧困者の国内移動の実態も把握する課題も明確になった。一方、より後発のパプアニューギニアでは感染症対策における日本のODA援助の可能性について検討を開始した。江下優樹(研究分担者)は、アジア中進国のタイに2週間、新興国中国を1週間、それぞれ調査した。タイでは同国マヒドン大学の協力の下、デング熱患者宅での感染蚊の動態を調べ、またHIV/AIDS感染者の実態調査を始めた。中国では、海南島の視察を実施し、インドシナ地域全体を視野に入れた援助の枠組み作りの必要性を考察した。こうした広域的なアジアの医療体制の枠組み作りの必要性は、海外協力者として来日した徐文波・中医医師との研究会合でも提出された重要な提案であった。平成20年度の調査は、予備調査してはほぼ予定通りの成果を得たものであり、次年度以降への基本情報を提供するものとなった。
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