本研究の目的は、ミレニアム開発目におけるHIV/AIDSを中心とする感染症への具体な対応策を検討する為、アジア新興国及びアジア太平洋地域を4年間にわたり、医療人類学的視点から調査することである。従って、2年目の平成21年度では、成田弘成(研究代表者)は、平成20年度に引き続きアジア新興国の担当者としてインドを計7週間、太平洋地域のパプアニューギニアを2週間、調査を行った。新興国インドの調査の重要性は、近年、同国のHIV/AIDSが増加しているのにも関わらず、その実態把握が困難なことであったが、本研究調査では、同国の感染症対策における内発的発展の兆しをより明確に把握する為、ニューデリー・ムンバイ・コルカタのインド三大都市を中心に、参与観察を行った。NGOや企業の地域貢献が、同国の感染症対策には必須であるが、インド国内では近代化に大きな地域差があり、今後も同国政府による包括的なイニシアティブが求められると言える。またパプアニューギニアについても、感染症の拡大(含コレラ)が顕著であり、諸外国の援助支援体制の整備が求められている。江下優樹(研究分担者)は、アジア中進国のタイに2週間、後発国のラオスを1週間、それぞれ調査した。タイでは同国マヒドン大学の協力の下、デング熱患者宅での感染蚊の動態を調べ、またHIV/AIDS感染者の実態調査を継続して実施した。ラオス調査により、インドシナ地域全体を視野に入れた援助の枠組み作りの必要性を考察した。こうした広域的なアジアの医療体制の枠組み作りの必要性は、海外協力者として来日したナルモン・コマラミスラ博士(マヒドン大学)との研究会合でも検討・確認された。平成21年度の調査は、地域情報を入手しつつ、コミュニティ重視の調査を行ったが、グローバルに展開する感染症の影響を強く意識するものとなった。
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