20年度の研究実績は、大量の史料調査(一部の翻刻)と研究会の開催・参加で、研究初年度としては初期の目的を達成することができた。 1.台湾総督府文書については、所蔵機関である国史館台湾文献館における現地調査を二回(08年9月と09年3月、のべ15日間)実施し、同館での閲覧と許諾されたネット経由により、臨時土地調査局で作成された約五万コマの史料画像を取得した。研究協力者とともに、これらの文書内容の翻刻・入力を進めた結果、20年度は約十万字のテキストデータを蓄積し、台湾における官僚制という観点を主軸に、多角的な分析に着手したところである。研究代表者に日本の近世における官僚制と裁判手続に関する業績が多いのは、近世に出自する明治期の吏員がこれらの文書を台湾総督府のもとで作成した事実から、近世・近代の連続性と転換点を探る意図があるからである。21年度は、これらをもとにしていよいよ総督府官員の作業実態に肉薄することになる。 2.台湾の近代化に総督府が果たした役割は大きい。そのうち、台湾の法院に残された判決原本が台湾大学法律学院教授王泰升氏によって公開されたので、成果を公表する国際シンポジウム(「日治法院档案与跨界的法律史研究(国際検討会、09年3月)」に招待され、積極的に討議に参加した。これに先立って名城大学においても「法文化の視点から『近代』を問う日台交流国際研究会」(08年6月)を開催していたので、20年度は内外二つの国際研究会に開催・参加したことになる。研究分担者松田恵美子の業績(翻訳)はその成果の一端である。
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