本研究は、近年成長の著しい新興国、特にインドと中国の2国を取り上げ、知識集約型産業クラスターの発展パターンと競争力構築戦略に関する国際共同研究を行うことを目的としている。これら2国は、いずれも、急速に知識経済(knowledge-based economy)化を進めており、イノベーション推進と技術力構築、さらに自国産業の高度化と国際競争力の強化を図るとともに、知識集約型産業クラスターの育成に努めてきた。本研究では、これまでの研究を発展させ、インドと中国のITおよび自動車産業クラスターに焦点を当て、産業クラスターの形成と発展パターンに関する比較研究を国際共同研究として実施した。特に、これら2国における代表的なITクラスター(グルガオン、プネ、チェンナイ、天津、上海)を事例にとり、(1)クラスター形成・発展の要因、(2)クラスタ-の内部構造とパフォーマンス、(3)地域労働市場の構造と技術者の質、及び技能形成パターン、(4)国際分業における位置づけ、(5)競争力構築戦略、(6)クラスター発展における政府の役割、の6点に焦点を当て、2国x2セクターの比較分析を行うことを目的とした。 第1年度である平成20年度にインド・カルナタカ州バンガロール市における自動車クラスターの中核企業である、トヨタ(TKM)を訪問し聞き取り調査を行ったが、これを踏まえ、第2年度である平成21年度には、比較分析のために、11月に中国天津市における自動車クラスターの中核企業であるトヨタ(TFTM)および関連機関、産業クラスター政策を実施する政府機関、大学および職業訓練機関等を訪問し、上記(1)、(2)、(3)、(4)、(5)、(6)について聞き取り調査を実施した。また、平成22年3月にインド・タミル・ナドゥ洲を訪問し、インドを代表する繊維・縫製産業クラスターであるコインバトール市ならびにティルプール市において関連の政府企業、産業団体との聞き取り調査を実施したほか、チェンナイ市ならびにデリー市において自動車産業団体等を訪問し、自動車クラスターの最新動向について資料収集を行った。さらに、平成21年12月18日・19日にアジア経済研究所で開催された国際セミナーにおいて、中国・インドの自動車産業クラスターの比較分析に関する報告を行った。また、平成21年ならびに平成22年には、中国において台頭するハイテク・クラスター(上海、杭州、蘇州)においてインタビュー調査を実施し、クラスター形成・発展における大学の役割を分析した。この結果の一部は、平成22年6月に日本比較教育学会で発表したほか、平成22年10月に、北京工科大学で開催された国際シンポジウムにおいて発表した。
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