本研究は、19世紀末から20世紀中葉にいたる時期の東北アジアを対象として、当該地域における金融インフラストラクチャーの歴史的構造を経済史の視点からあきらかにする。この研究課題のなかで、今年度は、第一に、本研究の中核的な対象となる露清銀行(1896年創業、1910年改組)・露亜銀行(1910年創業、1926年破綻)の経営史をとりあげ、一次資料に即して企業内部の動向を検証し、また東北アジアの経済・政治情勢との関連を中心に検討をすすめた。第二に、ロシア極東・中国東北部の決済慣行を検証した。具体的には、ウラジオストクの文書館に所蔵されている貿易決済関連資料(通関統計、貨幣流通統計等)を収集・分析した。 以上の課題遂行のため、6月から7月にかけてモスクワおよびウラジオストクに出張し、ロシア国立図書館・ロシア政府財務省アルヒーブ・ウラジオストク地方文書館等にて関連資料の収集をおこなった。 これらの資料収集をふまえて、露亜銀行について論考を発表した。また、露清銀行についての論考が印刷途上にあり、露亜銀行と競合した極東銀行についても英文の論考を準備中である。これらの検討をつうじて、東北アジアにおける金融インフラストラクチャーが、すぐれて広域の連関を持って成立していたこと、とりわけウラジオストクと中国の港湾都市(香港・上海)との関係性が決定的な重要性をもっていたことが論証された。
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