本研究は、19世紀末から20世紀中葉にいたる時期の東北アジアを対象として、当該地域における金融インフラストラクチャーの歴史的構造を経済史の視点からあきらかにする。この研究課題のなかで、今年度は、第一に、露清銀行(1896年創業、1910年改組)・露亜銀行(1910年創業、1926年破綻)の支店活動をとりあげ、一次資料に即して支店所在地の経済・金融的背景と銀行業務の関係を検証し、第二に、帝政期からソビエト政権期への移行期に露呈した決済慣行の諸問題について極東銀行を事例に検討を加えた。 これらの検討を経て(1)19世紀末・20世紀初頭におけるロシアの国際銀行業務においては上海・漢口の業務が貿易決済にとって決定的に重要であること、(2)当該銀行における為替業務の実態が「先方勘定」「当方勘定」の裡に表現されていること、(3)これらの勘定からは英系商社との取引が大きな比重を占めており、ロシア・フランス・中国の貿易環節にイギリスの業者が介在していたこと、等が解明された。 以上の研究については北海道大学スラブ研究所の論集に英文論文を発表し、また関連する1950年代の国際金融についてフランスの論集に仏語の論文を掲載し。また2011年2月から3月にかけてサンクトペテルブルクに出張し、ロシア国立文書館・ロシア国立図書館にて関連資料の収集をおこなった。
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