最終年度である平成22年度は、21年度までのオバマ政権下での国内移民規制の実態と移民運動組織の戦略の分析を踏まえつつ、規制の対象として取り締まられた移民たちへの現地調査を行い、その際、特に検挙後に移民運動の支援を受け、積極的に移民運動に参加している移民とその家族の経験のライフヒストリーの聞き取りを焦点とした。まず、4月-7月にかけては、21年度の調査におけるビデオ・音声資料の文字化を進めて、ビデオは今後の記録として字幕をつけ公開可能な形に加工して整理を行った。8月から9月にかけてのカリフォルニアにおける現地調査では、ロサンゼルス近郊の高度技術工場における一斉検挙事件に注目し、支援NGOらの協力を得て、そこで検挙された移民達の、米国への入国、居住、就労、そして検挙の経験を中心に2~4時間にわたる長時間の聴き取りを実施した。特に22年度の焦点である混合身分家族の形成から規制の影響の多様性を重視したライフヒストリー分析を意識した。加えて、非合法移民の子供たちによる大学進学への条件緩和とその後の滞在権の承認を推進する「ドリーム法」の成立を求める運動組織とそれに加わる若者たちの体験の聞き取りを行った。帰国後10月-1月には、これらの聞き取りの整理と編集を進めた。3月14日以降には東海岸において最終現地調査を実施した。ニューヨーク市と近郊における移民の若者からの聞き取りを進め、同市において台頭しつつあるメキシコ人集団の中で高学歴の若者たちの児童・生徒への学習支援運動の参与観察を実施した。その中で出会った若者たちに対し、混合身分家族の中での彼らの成長過程を聞き取り、その相互連関を分析した。政策分析の最終段階として、9.11事件10年を契機として、事件当時の移民帰化局長官への聞き取りを行い、同事件の移民規制組織再編成への影響の貴重な情報を得ることができた。
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