平成21年度には前年度に実施した量的調査を「サンパウロ日系コロニアにおける老人クラブ連合会の社会的機能~大都市における高齢者の社会生活を支えるネットワーク~」としてまとめ、公表する準備を進めるとともに、「社会分析(socio-analyse)」の方法を用いてのインタビュー調査を開始した。 サンパウロ老人クラブ連合会本部の教室に集まる日系高齢者17名に、本人の了承をえた上で、ライフヒストリーの聞き取りを実施した。日系コロニアで「功労者」とされている人々のライフヒストリーは日系新聞等に掲載されることも少なくないが、「普通」の暮らしをしてきた人々のそれはJICAの指導員の下で作成された「自分史」以外には稀であり、収集の意義は少なくない。日系組織を築き上げてきた人々の高齢化は著しく、組織運営の主体も徐々に日本での生活体験のない3世に委ねられつつある現在、「普通」の日系人がブラジルに残した足跡を肉声を通して確かな記録として残しておくために残された時間は少なくない。初等教育の段階から学校教育を受ける機会を剥奪された世代が、こどもの教育のために何をしたか、あるいはしたくともできなかったことは何かを中心に、営農地や生業の変遷、母国日本への思い、(している場合)出稼ぎでの体験等の聞き取り調査を実施した。調査を始める前の仮説としては文化資本の高い1世世代がこどもの教育における成功を導いたとしていたが、第2次世界大戦前後に移住した現在の高齢世代は日本でもブラジルでも教育を受ける機会を奪われていたことが量的調査を通して明らかとなり、むしろ教育への渇望や高等教育の無償制度が日系人を中間階層に押し上げた大きな要因と考えられる。この点をさらに明らかにするために、さらに丁寧な聞き取り調査を引き続き実施してゆきたい。
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