サンパウロ老人クラブ連合会を中心に関係諸機関の協力を得て2008年度に実施したアンケート調査の結果をベースに、引き続きインタビュー調査を実施した。インタビューの「方法」としてピエール・ブルデューが提唱した「社会分析(socio-analyse)」を取り入れ、社会調査に必然的に伴う「象徴暴力(violence symbolique)」を調停し、対象者を「理解」する調査の実践を心がけた。 日本文化の伝承のために日本語教育を中心に様々な努力が繰り広げられてきたが、ブラジル社会における中間層を形成している層であっても、親の文化資本や学校資本が直截的にこどもへと相続されたケースは稀であり、むしろ、再創造された傾向が顕著であることを、インタビューを通して再確認した。伝統文化も伝承的側面よりも、経済的に豊かになって以降にエスニックアイデンティティを補完するために獲得されるケースが少なくない。こうした傾向性を、三世代にわたって愛好される傾向性が認められる煎茶道や、ブラジル社会にも広く人気のある琉球舞踊の伝承を中心に、参与観察とアンケート調査を通して分析を試みた。後者は広義には日本文化であるが琉球独自の文化でもあり、日本祭りにおける最も重要な演目であると同時に、琉球人(lequios)としてのアイデンティティを表すものでもある。沖縄の舞踊学校で資格を取得する師範を続々と輩出する沖縄系のコロニアにおける文化伝承は、孫の世代にアニメーションやまんがといった新しいサブカルチャーを通して日本文化への接近を促す本土の文化とは対照的にその生命力の逞しさが顕著である。こうした文化伝承の有り様を、さらなる現地調査におけるインタビューと参与観察を通して明らかにしてゆきたい。
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