本研究は、フランスの1989年教育基本法による初等教育の3つの学習期制導入の背景とその実施経過を明らかにしようとするものである。今年度は、2009年11月及び2010年3月に、2回のフィールド調査を行い、学習期制導入後20年間の実施状況と問題点の把握に努め、関係資料を入手した。主に学習期制の考え方に内包される異学年学級編成の実際を広く調査した。その内容と成果は次の通りである。 1.調査した教育実験校や独自の教育方法を追及する公立初等学校は、ドクロリー公立学校(サン・マンデ市)(幼・小・中)、ヴィトルーヴ小学校(パリ市)、ブルソー学校(サントーエン・ローモーヌ市)(幼・小)、ネルヴァル小学校(クレイユ市)、バラール小学校(モンペリエ市)、フランク保育学校(モンス・エンバルール市)などである。また、義務教育の一貫性の観点から、前期中等教育の先進的な実験まで調査を広げた(ボルドー市のクリステーヌ・コレージュ)。その結果、(1)フレネ教育やプロジェクト学習の有用性、(2)異質性を原則とする教育方法の優れた点が確認された。とくに暴力の問題に悩む学校がこの方法を採用し、協力的な教員集団を組織して学校の正常化を成し遂げた事例の調査を行いその有効性が検証された。また、異学年学級編成で学習期制による幼小一貫教育を実施するブルソー学校の取り組んだ卒業生追跡調査の結果も、この教育方法の有効性を立証するものであることがわかった。 2.学習期制による幼小一貫教育を他に先んじて始めながら、近年終止符を打ったグルノーブル市のラ・ヴィルヌーブ地区学校群の実践について詳しい聞き取りや資料収集を行った。 3.最新の教育改革の動き、とくに教員養成や評価、義務教育の学力保障、就学前教育などの政策動向についてパリ市等の教育行政関係者や教育団体から聴取した。
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