平成22年度は収集したスペインの初等教育段階の美術教科書に見られるビジュアル表現の用い方を中心に、視覚デザインの工夫、図形表現の在り方、情報メディアの導入の仕方等についてビジュアル・リテラシー教育という視点から分析するとともに、教師用指導書や関連資料から指導方法についての理論的研究を行った。 また、前年度までの現地調査で得た写真や映像等の資料分析と整理を行い、不足部分の補填と未解決な問題等の対応として現地の研究者、小学校教員、資料収集・翻訳の為の協力者を7月に招聘し、調査結果の考察を行った。(研究代表者:金子亨、連携研究者:都築邦春、藤井穂高、石井壽郎、正木賢一、研究助手:藤井康子)具体的な内容は、下記のとおりである。 1.平成20年度、21年度に収集した初等教育段階の美術教科書及び教師用指導書の分析と考察を行った。 2.平成20年度、21年度に教育科学省、国会図書館等で収集した教育関連法規、関連資料の翻訳を行い、教育制度、教育組織、現行教育法、美術の学習指導要領について分析と考察を行った。 3.スペインの美術教科書研究の第一人者であるバルセロナ・アウトノマ大学のエステル・コリャドス准教授、現地の小学校で美術講師を務める宮原むつ美女史、スペイン研究家の宮崎光世女史を招聘し、スペインの美術教育に関する研究発表と意見交換の場として7月31日(土)に国際シンポジウムを開催した。 本研究では、美術教科書におけるビジュアル表現の研究が中心であるため、教科書の作成に携わる教科書会社の編集者及び執筆者の考え方と教育委員会の行政側の考え、現場教員からの要請を把握しその本質を捉えることが重要であった。教科書では写真よりも挿絵が多用されているが、挿絵は伝えたい内容を凝縮した形で表現できるため伝達媒体として適切であり、それがスペインの美術教育の特質にもなっていることが明らかになった。
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