ブレア政権成立以後を中心に、政策に関する分析軸をめぐる議論についての理論的検討、研究対象期間における保健・医療政策についてのデータの収集、英国の政策・政治における選択に関わる歴史的資料の収集を実施した。同時に、近代以降の英国の医療政策の展開についての主要文献の整理、争点としての「患者の選択」についての多様な観点からの論点の整理、政策分析についての方法的検討(政府文書、各種報告書、マスメディア情報等)を行いワーキングペーパーの作成をすすめた。 このような結果、以下の事項が明らかになりつつある。 (1) 「患者の選択」は、ブレア「選択」をめぐるより大きな政治との関係がある。これには、住居や教育など他の領域が含まれている。他方では医療の領域に対応した「選択」が議論されている。 (2) ブレア政権によって「患者の選択」や医療機関の選択、健康に関わる習慣の選択の両面と関わって用いられており、この点で医療をめぐる政治とともに健康をめぐる政治とも関わっている。 (3) 「患者の選択」は、公的部門(NHS)での選択とともに、公私役割論とも関係し、それゆえサービスや質の向上という政策目標とは別の文脈でも議論されてきた。 (4) 情報コミュニケーション技術(ICT)の発展など、情報環境の変化の文脈でも「患者の選択」は議論されてきている。 (5) 「選択」は公平、効率など多様な論点と関わるので、それ単独では議論になりにくいが、政策全体の一つの軸として重要な位置を占めるようになってきている。
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